星探し-for this world-
――いつか星を探しに行くのよ。それさえあれば、この世界から争いが消えるの。
君はいつもそう言って楽しそうに笑っていた。
おとぎ話を本気で信じている君。
だけど、僕も心のどこかで信じていたのかもしれない。
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戦争の絶えないこの世界。
もう誰も、何のために争っているのかなんて憶えていない。
目の前に敵らしきものがあるから戦う。
ただそれだけ。
そこにあるのは絶望。
いつ終わるかわからない戦争が、ただ広がる……
そんな時代にも、いや、そんな時代だからこそ。
人々の間で夢のような話が飛び交う。
――この戦争を終わらせることができる『星』があるらしい。
本気でこの話を信じていた人なんて、いなかったと思う。
でも、やっぱり皆、心のどこかで信じていたんだと思う。
僕もその一人。
でも、たった一人だけ、この話を心の底から信じていた人がいた。
――いつか、私は星を見つけるの。そうして、この世界から戦争をなくすの。
かろうじて残っているビルの窓際に座って、読みかけの本を膝の上に置いて、
窓から崩れかけた街を見ながら、星華(せいか)はいつもそう言っていた。
街を見る時はいつも、星華は少し悲しそうな顔をする。
いつの間にか、僕もだんだん『星』を信じるようになっていた。
それで戦争がなくなるなら。
星華が悲しそうな顔をしなくて済むのなら。
星華と一緒に星を見つけてみたい。
――行きましょ、玄兔(げんと)!星を探しに!
星華はとても幸せそうな笑顔を僕に向ける。
そして、僕に背を向けて当てもない旅を始めようとする。
僕がその嬉しそうな背中を追いかけようとした瞬間…
ドオォォォンッ!!
凄まじい轟音と閃光が僕を包む。
……流れ弾?
そんな事を考えながら、僕は思わず目をつぶり、耳を塞ぎ、その場に座り込む。
どれぐらいの時間が経っただろう…
轟音と閃光が止んだことが分かり、僕はゆっくりと目を開ける。
幸いにも、僕はかすり傷で済んだみたいだった。
そうだ、星華は……?
僕は慌てて周りを見回す。
だけど、何処にも星華の姿が見当たらない。
さっきまでは、確かにそこにいたのに……
ふと、僕は光る何かを見つける。
近づいてよく見てみると、それは……
『星』だ。
そう、そこに『星』があったのだ。
小さな血の水たまりの中に、
この世界の戦争をなくすことができる、
星華が信じて止まなかった『星』が。
……あれ? でもここは。
この場所は確か……
ここはさっきまで、爆発が起こるまで、確かに星華が立っていた場所だ。
よく見ると、血の水たまりの近くに焼けただれた布きれが落ちている。
その場にしゃがみ、僕はその布きれを手に取ってみる。
これは、星華が着ていた服……
なら、この血の水たまりは、この『星』は……
僕は『星』を手に取って、血を拭う。
何とも言えない気持ちになる。
それは決して良いものではなく……
――星を探しに行くのよ。この世界を平和にできるのよ。
星華の声が、頭の中で響く。
星華の笑顔が頭の中に浮かんで、そして消える。
気が付くと、僕は泣いていた。
この『星』を見ながら。
これでこの世界は平和になるかもしれない。
だけど、例えそうなったとしても、僕は全然嬉しくない。
世界中の人がどんなに望んだとしても。
喜んだとしても。
僕は、こんな平和なんて欲しくない。
欲しくなかったのに……
こんなことになるなら、『星』なんて、なくてよかった……
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星華の死とともに、あっけなく終わってしまった『星探し』の旅。
それと同時に、この世界の戦争も終わった。
果てしなく続くと思われていた戦争が。
人々は皆喜んだ。
嬉しくて泣いている者もいた。
僕も泣いていた。
だけどそれは、皆とは違う理由で。
胸に『星』を抱えて、いつまでも……
-end-