星の夢-This world lost you-

――行きましょ、玄兔! 星を探しに!

幸せそうな笑顔を見せる君。
そして、僕に背を向けて前に進み出す。

……そっちに行っちゃ駄目だ。

そう言いたいのに、声が出ない。
君を引き止めたいのに、体が動かない。
ただ、涙が溢れる。
そして、君は光の中に消える……。

……星華……

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……!

僕は目を開ける。
東側の窓の外から少し強い光が差し込んでくる。

――夢、か……

僕はまた落胆する。
これで何度目だろう……

あれ以来、『星』を見つけたあの日以来、
僕は毎日のように同じ夢ばかりを見る。

星を探しに行こうとする星華。
それを引き止めようとする僕。
だけど、僕には何も出来ない。
そしてそのまま、星華は消えてしまう。

僕の夢の中で、星華は何度も死ぬ。
僕が夢を見る度に、星華は死ぬ。

せめて夢の中だけでも、星華に生きていて欲しいのに。
だけど、それさえ叶わない……

涙が頬を伝うのを感じる。
僕はまた泣いていた。
いつも、夢から覚めた時は泣いている。
夢の中で星華を失うたびに、
夢の中でも、そして現実世界でも、僕は泣いている。

僕は涙を拭いながら、ベッドの脇に置いてある『星』を見る。
星華の命と引き換えに手に入れた『星』。
そして、平和。

本当にこれで良かったのだろうか。
平和は命を犠牲にしてまで、手に入れるべきものなのだろうか……?
今までだって十分平和で、それに幸せだったのに。
少なくても、僕にとっては……

――それでもやっぱり、皆に幸せになってほしいもの。

……!?
ふと、どこからともなく星華の声が聞こえた気がした。
そんなこと、あるはずないのに……

星華ならそう考えるのだろうか?
自分の事よりも、他人の幸せを望むのだろうか?

一瞬、『星』が強い光を放つ。
まるで、僕の考えている事を肯定するように。

――皆が幸せになれるなら、私はそれで幸せ。

まただ。
また、星華の声が聞こえた気がした。
この『星』から……

わけもなく、僕の目から涙が流れ出す。
そして、また星華の声が響く。

――悲しまないで、玄兔。私はここにいるのよ。

空耳なんかじゃない。確かに、『星』から聞こえる。
涙が止まることはなかった。
だけど、それは今までとは違う理由で…

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犠牲の上に成り立つ平和が正しいのかは、今も僕にはわからない。
きっと、誰にもわからないと思う。

だけど、これで良かったのかも知れない。
これは『星(きみ)』が望んだ夢(せかい)なのだから。
だから、僕は一つだけ願う。

願わくは、星の夢が永遠に続くことを……

-end-

presented by Mito Natsuhatsuki since 2003.5.18