小鳥の涙

 ――飛び出したいのなら、いつでも飛び出してごらん。

 貴方はそう言って、鳥籠の鍵を放ちました。

 ――ここから飛び出したいと思ったら、いつでもそうするといい。

 少し微笑みながら、貴方は鳥籠の扉を少し開けました。
 中に居る私が外へ出やすいようにと。

 私は鳥籠の中から、扉を押し開けました。
 しかし、その手は途中で動きを止めてしまいました。

 貴方を見上げながら、私は涙を流しました。
 決して嬉しくて流しているわけではありません。
 私の胸は辛さのあまり、張り裂けそうなのです。

 この鳥籠の外の世界を、見てみたいとは思います。
 しかし…貴方はご存知なのでしょう?
 貴方とこの鳥籠の中だけが、私の世界を織り成していると。

 それを知っていて、貴方は扉を開け放つのですか?
 狭く安定した世界をうち捨て、広大で未知なる世界へ飛び立てと言うのですか?
 何が起こるか分からない、恐ろしさで溢れた世界へと……

 その恐ろしさを思うと、体の震えが止まりません。
 次から次へと涙が溢れ出してきます。

 涙を流す私を見ながら、何故貴方は微笑んでいるのですか?
 私にはどうせ出来ないだろうと、嘲り笑っているのですか?
 私の心の内を全て見抜いて、貴方は笑ってるのですか?

 貴方は知っているのですか?
 私がここから飛び立てないことを。
 貴方の側から、離れることが出来ない事を……

 私はただ涙を流していました。
 この背中にある翼をはためかそうともせずに。
 放たれた鳥籠から飛び立つ勇気を持てずに。
 ただ、涙を流していました……

-end-

presented by Mito Natsuhatsuki since 2003.5.18