祈られるモノ

 普段私を信じぬ者でも、自分の身に危機が迫ると私に救いを求める。
 私の名を口にし、祈りを捧げる。
 私に祈りを捧げた後、事態が良い方へ向かえば、
 私に祈りが通じたと思い、今度は私に感謝の祈りを捧げる。
 しかし、事態が良い方へ向かわなければ…
 私を罵り、果ては私の存在を否定する。

 だが、私は確かにこの世界に「いる」。
 確かにこの世界を創り出したのは私だ。
 しかし、それはもう昔のこと。
 今はもう「いる」だけだ。
 私に、人々の祈りを聞くだけの力はない。
 世界を創り上げることは出来ても、出来上がった世界に再び手を加えることは出来ない。
 どれだけ多くの人々に祈りを捧げられても。
 例え、この世界が滅び去ってしまう、その瞬間も。

 本当は手を差し伸べたくて仕方がない。
 求める者全てに、等しく救いを与えたい。
 しかし、今の私にはもう、世界を見守る事しか出来ない。
 それが、私に与えられた運命。
 それが「私」なのだ。

 ――それでも貴方は、私に祈りを捧げるか?

 -end-

presented by Mito Natsuhatsuki since 2003.5.18