第二話 悲哀の龍巫女


黒と紫の色を主に使ってる神殿、『闇黒龍の神殿』のあんまり広くない通路をオレ、大爆は歩いてる。
この奥にいる奴に会うために。
しばらく歩くと、神殿の広間に着く。そこにオレの探してた奴はいた。
長くて綺麗な黒髪、そいつの身長より長い杖を横に置いて、広間の奥の祭壇のそばに座ってる。
「歌夜」
オレがそいつ、歌夜の名前を呼ぶと、
「あっ、大爆様」
歌夜は振り向いて、少し悲しそうな顔でオレに笑いかける。
オレは歌夜の傍まで行って、横に座る。
「どうなされたのですか、大爆様?」
「いや、何となく会いたくなってさ」
「まぁ、ありがとうございます」
歌夜はまた笑う。けど、やっぱどっか悲しそうだな……。
「…………」
歌夜はオレを見てるけど、どっか他のもんを見てるような目をする。
「……歌夜、何考えてたんだ?」
「え? 別に考え事など……」
「してねーって? んなわけねーだろ? お前の顔見りゃわかるぜ。なんか悩んでることぐらい」
考えてる内容も何となくわかるんだけどな。
こいつ、悲しそうな顔してるから。
歌夜は少し下を向いて、それからしゃべり出す。
「……あの、大爆様。一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ん? 何だ?」
「大爆様は何故、お姉様の……その、復讐のお手伝いをなされているのですか?」
「ん? オレか? そーだな……」
オレは少し考えて、
「……許せねーからだと思う」
「許せない?」
「ああ。光白龍族の誰かがお前のオヤジを殺したんだ。それが許せねーんだ」
「……お気持ちは嬉しいのですが、でも、だからと言って、復讐は……」
「それはわかってるぜ」
「え?」
歌夜は顔を上げてオレを見る。
「復讐してお前のオヤジが生き返るってわけじゃない。お前が喜ぶわけでもない。それはわかってるつもりだぜ。
オレがしたいのは復讐じゃねーんだ。お前のオヤジを殺した奴を見つけ出して、そいつのした事の重さを思い知らせるんだ。
他の奴に八つ当たりまがいの事するつもりはねーぜ」
オレは歌夜に笑ってみせる。
「それでは何故……光白龍族の方と戦われたのですか? 復讐をなさらないのなら何故?」
歌夜はさらに訊く。
「あいつらが強そうだったからだよ。強そうな奴見ると、いても立ってもいられねーんだ。殺し合いをするつもりはさらさらねーよ」
そんなことしても、歌夜が悲しむだけだしな。
「まぁ、結局あの雷音って奴との決着、着けれなかったけどな」
オレは軽く伸びをして、そのままそこに寝っ転がる。
「そう、ですか……」
歌夜は少しホッとした顔をする。
オレはがばっと起き上がって、
「雷音って奴、ひでぇんだぜ! オレとおんなじ年なのに、オレのことガキ扱いすんだぜ!」
と言うと、歌夜は、
「まぁ」
口に手を当てて、驚いた顔をする。
さらにオレは歌夜に聞く。
「なぁ? オレってそんなにガキに見えるか?」
「いいえ、そんなことございません」
歌夜はくすくす笑いながら答える。
「……よかった」
「何がですか、大爆様?」
「お前が楽しそうに笑ってることがだよ」
「え?」
歌夜が驚く。
オレは歌夜から目をそらして、少し下を向く。
「オレ、お前が悲しそうな顔してんの、あんま見たくねーんだ」
自分の顔が少し熱くなるのがわかる。
横目で歌夜を見ると、
「あ……」
歌夜の顔も少し赤くなってる。
「お前、なんでも一人で抱え込むだろ? 辛い事でも何でもさ。それが全部顔に出てんだぜ」
オレは顔を上げて、歌夜を見る。
「あんま一人で抱え込むなよ? せめて、オレには話せよ。オレはお前の許婚なんだかんな」
オレは軽く歌夜に笑いかける。
「しかし、それでは大爆様にご迷惑では……」
歌夜は少し控えめに言う。
「そんなことねーよ。オレはお前に悲しい顔される方がイヤだ。だからさ、遠慮なんかすんな…な?」
オレは歌夜の目を見る。
「……はい」
歌夜は笑顔でうなずく。やっぱ、歌夜は笑った顔の方がいいな。
「そういえばさ……」
「はい」
「なんで、オレなんかがお前の許婚になれたんだろーな?」
オレは天井を見て、
「決めたの、お前のじーさんなんだろ?」
また歌夜を見る。
「はい、そう聞いております」
歌夜はうなずく。
「お前のじーさん、なんでオレを許婚にしたんだろーな?」
「おじい様の考えは分かりかねますが……」
歌夜は一回言葉を区切る。
「私は大爆様の許婚であることを幸せに思っております」
歌夜は笑顔をオレに見せる。
「ほ、本当か?」
オレは少し赤くなる。
「はい。大爆様はいつも私の事を気にかけて下さいます。
それに……おじい様は『龍巫女』としての私のみしかご覧になられませんが、大爆様は私を一人の『歌夜』としてご覧下さいます。
私にはそれが大変嬉しいのです」
歌夜は本当に幸せそうな顔をする。
「べ、別に大したことじゃねーよ」
オレの顔がさらに赤くなるのがわかる。
「オレは『歌夜』って言う一人の人間を大切にしたいだけだ。ただそれだけだ」
「ありがとうございます。私にとっても大爆様はとても大切なお方です」
歌夜は笑ってる……と思う。恥ずかしさと嬉しさで、歌夜をまともに見ることが出来ねーから、確信はねーけど……。
オレはどうにか口を開く。
「……オレも、さ……」
「はい」
「……オレもさ、歌夜の許婚ですげー嬉しいよ……」
オレは恥ずかしさをどうにか抑えて、横目で歌夜を見る。
すると、歌夜は目を潤ませながら幸せそうな顔をしてる。
「……おい、歌夜、泣くなよ。オレ、お前の泣き顔にも弱ぇんだかんな……」
「はい……」
歌夜はこの上なく幸せそうに笑う。
オレも歌夜に笑ってみせる。
ちゃんと笑えてるかどうかはわかんねーけど。
……光白龍族と仲良くすんのもいいかもしんねーな。
まぁ、歌夜のオヤジを殺した奴を見つけてからだけどな。
それで歌夜が悲しい顔しなくなんなら、いつも笑っていられんなら、な……。


第二話−悲哀の龍巫女− 完




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