第一話 光と闇の邂逅


道場に金属同士がぶつかり合う音が響く。
この道場は天井がかなり高いから、音がよく反響する。
「はぁ!!」
――キィンッ!!
私の振り下ろした大刀が相手の武器―――棍でガードされる。
なかなかやるわね……。
でも、まだまだ甘いわね。他がガラ空きよ……。
「たぁっ!!」
――ドンッ!!
「うわぁっ!」
私は大刀を引くのと同時に、その場にしゃがみ込み、相手に足払いを食らわす。
私の予想通り、相手はその場に倒れる。
「……つぅ………はっ!」
――チャキ……
相手は痛みに耐えながら体を起こそうとするけど、すぐにそれを止める。
喉元に私の大刀の切っ先が当たっているのだから……
「勝負、あったわね……」
「くっ……」
相手は悔しそうに声を上げる。
私は大刀を相手の喉元から離して、相手から一歩離れる。
相手はゆっくり起き上がる。
「こんなんじゃ、いつまで経っても私には勝てないわよ、土穏(トゥーウェン)
私は目の前にいる相手――土穏に声をかける。
「ちっ、今日も雷音(レイイン)に勝てなかったか……」
土穏は悔しそうに呟く。
まぁ、こう毎日女の私に負けているんだから、無理もないけれど。
もっとも、勝負を挑んでくるのは土穏の方だけど……。
あ、自己紹介をしておいた方がいいわね。私は雷音。光白龍族の16才よ。
「さすがは、光白龍族の中で一番の実力者だな、雷音」
彼は土穏。私と同じ、光白龍族で19才。前髪と瞳は茶色、後ろ髪は薄めの銀色をしている。
光白龍族は皆、後ろ髪は薄めの銀で、前髪と瞳の色は龍力によって違うのよ。
ちなみに、私の前髪と瞳は金色よ。


あ、龍力の事を説明した方がいいわね。
龍力と言うのは、光白龍様の血を体内に持つ私たち光白龍族が、
火・水・風・土の4元素と光のうち1つを操る事が出来る力の事で、
それぞれを『龍火力』『龍水力』『龍風力』『龍土力』『龍光力』と呼ぶのよ。
あと、火には爆、水には氷、風には雷、土には緑、という具合にそれぞれ補助属性があって、
それぞれを『龍爆力』『龍氷力』『龍雷力』『龍緑力』と呼ぶの。
もう一つ付け加えるなら、体内に闇黒龍の血を持つ闇黒龍族にも龍力があるんだけど、
彼らには『龍光力』が使えない代わりに、『龍闇力』――闇を操る力があるのよ。
そして、この龍力は多少外見――前髪と瞳の色に影響を与えるのよ。
龍土力なら茶色に、龍雷力なら、本来は銀色から金色なんだけど、私は例外で金色っていう具合にね。


「お兄ちゃん、また雷音ちゃんに勝てなかったですねぇ」
突然、私の耳に少し間延びした、甲高い声が響いてくる。
声のした方――道場の入り口の方を振り向くと、そこには土穏の妹――恵炎(フィエン)がいた。
膝の辺りまで伸ばした髪を二つに束ねている。
龍火力の使い手だけど、前髪の色はピンクで、瞳の色は赤という、彼女も例外の色をしている。
本来なら前髪も瞳もオレンジなのよね、龍火力は。
ちなみに恵炎は、12才にして弓の名手として光白龍族の中でも高い評価を得ている。
でも、恵炎は弓より龍力の方をよく使うのよね。
「いつになったらぁ、雷音ちゃんに勝てるですかぁ?」
「少し黙れよ、恵炎……」
土穏は溜め息にも似た声を出す。
「あら、もう終わったの?」
「お疲れさんやな〜」
「あっ!」
突然、恵炎の後ろから声が2つ響いてくる。
「凛泪(リンレイ)ちゃん! 迅風(シュンフォン)くん! どうしたですかぁ?」
二人の存在に気付いて、恵炎が声をかける。
「皆でお昼ご飯を食べようと思って」
優しく微笑む彼女が凛泪。光白龍族の20才。
前髪と瞳の色は水色、龍水力の使い手。
その優しそうな外見とは裏腹に、凛泪はムチを使うんだけど……
彼女のムチの動きは予測するのが難しくて、更にそこに龍力を合わせて使ってくるから……。
あまり敵にしたくないタイプね。
「ちゃ〜んと皆の分、作ってきたんやで」
独特の口調でそう言いながら、昼ご飯を見せるのが迅風。
光白龍族の19才で、土穏の親友。
前髪と瞳の色は銀色、龍風力を使えるのよ。
彼の武器はナイフなんだけど、直接敵を切りつけるんじゃなくて、ナイフを投げて敵を攻撃するのよ。
「わぁっ! 迅風くんの料理ですぅ!」
恵炎は嬉しそうに言う。
まぁ、そうなるのも無理はないわね。迅風の料理の腕は超一流だから。
「じゃあ、早速食べるか」
「せやせや、早ぉせんと冷めてまうで」
迅風はその場に昼ご飯を広げる。
エビチリに春巻にシュウマイにチャーハン……相変わらず凝ってるわね。
あら?そう言えば……
「ねぇ、凛泪、迅風。姉さんは?」
「あら、呼びました? 雷(レイ)
道場の入り口の方からよく通る綺麗な声が響く。
日華(リーファ)姉さんだわ。
「あ、日華さん、お祈りの方、終わったんですか?」
「ええ、今しがた」
日華姉さんはやわらかく微笑む。
日華姉さんは私より2才年上の18才で、私の実の姉で龍光力を使う。
姉さんは瞳の色が金色で、長く伸ばした髪は前髪だけじゃなくて全て薄い銀色。
これは龍光力の人皆同じ。
まぁ、龍光力を持って生まれてくる人は滅多にいないけど。
「ほんなら、皆そろうたことやし、食べようか」



 

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