第三話 光の龍祭り


光白龍族の村がいつもよりざわついている。
別に魔物や闇黒龍族が攻めて来たわけじゃないのよ。
いつもより騒がしい理由は、明日の夜、龍祭りが行われるからなのよ。
龍祭りって言うのは、年に一回、光白龍様に感謝の気持ちを込めて行われる祭りのことよ。
龍祭りでは、日華姉さん――つまり龍巫女が唄ったり、この祭りのために選ばれた祭巫女と一緒に踊ったりするのよ。
それで、その龍祭りが明日行われるから、光白龍族の皆はせわしなく動いているわけ。
もちろん私、雷音も例外じゃない。
なんたって、私は今年の祭巫女なんだから。
「綺碣(チーチェ)おばさん、服ありがと」
私は目の前にいる中年で小太りのおばさん、綺碣おばさんにお礼を言う。
「いいんだよ、雷音。それより明日のあんたの踊り、楽しみにしてるよ!」
綺碣おばさんは笑顔で答える。
綺碣おばさんは、光白龍族の村で一番の仕立て屋。
こうやって、祭巫女が着る服を作るのも綺碣おばさんの仕事の一つ。
それで、祭巫女の服が出来たって聞いたから、私は綺碣おばさんの家まで取りにきたのよ。
「ええ。期待していて、綺碣おばさん」
私は綺碣おばさんに軽く別れを告げる。
私はそのまま家には帰らず、明日龍祭りが行われる広場に寄っていく。
ここも結構賑やかだけど、広場の準備自体はもう終わっているみたいね。
とは言っても、広場の中央で火が焚けるようにするだけなんだけれど。
少し広場を眺めていた時、視界の隅によく見知った人物を二人捕らえる。
「あら、土穏、迅風」
私は二人に声をかける。
「あぁ、雷音」
「雷音やないか。何しとるん?」
「別に。ちょっと広場を見ていただけよ」
私は迅風の質問に答える。
「そういや雷音、祭巫女やったな。ほんならそれ、巫女の衣装やな?」
私が持っている衣装を指しながら、迅風が尋ねてくる。
「ええ、そうよ」
私は頭を軽く縦に振りながら答える。
「あー、明日が楽しみやな。なぁ、土穏?」
迅風は少しニヤつきながら肘で軽く土穏を小突いて、
「あ、ああ……」
土穏は少し赤くなりながら頷く。どうしたのかしら? この二人……
あ、土穏と言えば……
「土穏。今日は手合わせしなくていいの? 一応時間はあるから、出来なくもないけど……」
「あ、いや、今日と明日はいい」
「そう、わかったわ」
まぁ、今日は龍祭りの前日で、明日は当日だからね。
「それなら、私はもう家に帰るわね」
「ああ、頑張れよ」
「明日、頑張ってや!」
「ありがと。それじゃ」
私は二人に軽く手を振って別れる。


夕食の時間。父さんと母さんと姉さんとそして私が食卓を囲んでいる。
「明日は龍祭りねぇ。日華も雷音もがんばるのよ」
母さんが激励の言葉をかける。
「もちろんよ、母さん」
「はい、がんばります」
私と姉さんは笑顔でそれに答える。
まぁ、年に一度の龍祭りで手を抜こうなんて考える人はいないでしょうけど。
「そういえば、凛泪ちゃんも祭巫女だったな」
今度は父さんが口を開く。
「ええ。確か凛泪は今年で5年連続」
あ、少し説明した方がいいかしら。
祭巫女は一人だけじゃないのよ。
祭巫女は七人いて、毎年選び直されるのよ。
年はだいたい16才から20才の間で。
「二人とも、明日の準備は完璧か?」
父さんが訊く。
「大丈夫ですよ。二人とも、毎日練習してましたから。雷音はちゃんと綺碣さんに服をもらってましたから」
私と姉さんの代わりに母さんが答える。
「そうか。二人とも頑張れよ」
『はい』
私と姉さんは同時に返事をする。



 

presented by Mito Natsuhatsuki since 2003.5.18