ここは光白龍族の村のすぐ近くを流れる『晶雪(せいせつ)の川』。
この川は、光白龍族と闇黒龍族の村のちょうど間の場所にある『四龍の泉』から流れているのよ。
「…ふぅ」
川の冷気と風ですごく涼しいわね。火照りが消えていくわ。
今日は『あれ』は見れないのかしら?
あっ、『あれ』っていうのは、この晶雪の川で起こる不思議な現象のことよ。
この晶雪の川では夜、特に龍祭りの日の夜には川から光の雪が舞い上がるのよ。
それがとても綺麗で、ちょっと楽しみにしていたんだけど…
ちょうど満月も出ていることだし。
まぁ、満月に照らされた川は十分綺麗なんだけどね。
しばらくの間、そよ風に吹かれながら私は晶雪の川を見ていたんだけど…
「雷音」
後ろから声をかけられる。私が振り向くとそこには、
「あら、土穏じゃないの。どうしたの? あなたも涼みにきたの?」
「い、いや、別に、そうじゃない…」
「ふぅん…」
顔が少し火照っているみたいだから、てっきり涼みにきたのかと思ったんだけど。
「それじゃあ、何しに来たの?」
「あ、いや、川を、晶雪を見に来たんだ」
あ、そういえば言ってなかったわね。
川から光の雪が舞い上がる事を晶雪って言うのよ。
この川が『晶雪の川』って言うのは、晶雪が起こる川だからなのよ。
「そう。でも、今日はまだみたいね」
私は晶雪の川を見ながら言う。
「そういえば…」
私は土穏の方に向き直って、
「今日の私の踊り、どうだった? 変じゃなかった?」
土穏に今日の龍祭りの時の踊りの感想を聞く。
「いや、すごく綺麗だった」
土穏は軽く微笑みながら答えてくれる。
「そう、ありがと」
私は土穏に微笑み返す。
別に自信が無かったわけじゃないんだけど。
でも、土穏にそう言ってもらえると、何か安心すると言うか、少し嬉しいような…。
さっき火照りは引いたはずなのに、また顔が少し熱くなってきた。どうしてかしら…。
私は土穏から視線を外し、晶雪の川のほとりに座る。
手に持っていたリングを横に置いて、川に手を入れる。
水が冷たくて気持ちいい。
「…そういえば、昔から二人でよく晶雪を見に来たわね」
「ああ、そうだな」
土穏が横に座る。
「母さんに初めて連れて来てもらった時、すごく感動したのを覚えているわ」
私は土穏を見ずに言う。
「確か、最初に二人で来たのは…父さんと母さんが殺された日だったな…」
「土穏…」
土穏は少し辛そうな顔をしている。
私は軽く苦笑いをしながら、
「あの時の土穏、今よりもずっと辛そうな顔をしていたから。晶雪を見れば、少しは元気が出るんじゃないかと思ってね」
私も嫌な事があったら、よく晶雪を見に来ていたからね。
「そうか…。ありがとう、雷音」
土穏が微笑む。
「べ、別に大したことはしてないわよ…」
どうしてかしら…また少し顔が熱くなる。
その時…
『あっ』
私と土穏が同時に声を上げる。
その理由は…
「…晶雪だわ」
川から光の雪が、晶雪が舞い上がる。
こっちに飛んできた晶雪が、私や土穏に触れると雪が溶けるように消えてゆく。
「…綺麗だな」 「ええ」
私の手のひらに晶雪が落ちてくる。
晶雪はほのかに温もりを残しながら消える。
「………」
「………」
私たちはしばらくの間、無言で晶雪を見る。
「…なんか…」
最初に沈黙を破ったのは私。
「ん? どうした、雷音?」
「…なんか、不思議よね、晶雪って。見慣れているはずなのにね」
今まであまり気にしていなかったけど、川から光の雪が舞い上がるなんて、不思議ね。
「…そうだな。でも、いいんじゃないか」
土穏が微笑む。
「そうね……」
晶雪と満月が、私と土穏を穏やかに照らす。


第三話−光の龍祭り− 完



 

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