さっきの爆発の痛みがほとんど消えて立ち上がろうとしたとき、
「お止めください!!」
という声が私の耳に聴こえてきた。
私たちは戦うのを一旦止めて、声のした方を見る。
そこにいたのは、さっきの声の主らしい、波うった長い黒髪の女の子と、
後ろ髪が黒で前髪と瞳が緑色の男の子――きっとこの男の子が緑心ね、恵炎がそう言っていたから――、
そして……
「……恵炎!!」
土穏がその名前を呼ぶ。
見たところ怪我とかは無いみたいね。
「お兄ちゃん!!」
恵炎は駆け寄って来て、土穏に抱きつく。
「大丈夫か、恵炎?」
土穏は優しく恵炎の頭を撫でる。
「ダイジョウブですぅ。心配かけてぇ、ごめんなさいですぅ。それより、お兄ちゃんたちも無事でよかったですぅ」
恵炎は少し涙声になりながら言う。
「何故邪魔をする!? 緑心! 歌夜!」
地香が怒鳴る。
「お止めください、お姉様、刃冷様、大爆様」
地香に歌夜と呼ばれた女の子は、地香の質問には答えずに、さっきの言葉を繰り返す。
この歌夜の髪の色はすべて黒で、瞳の色が紫。
この子、闇の龍巫女なのね。
「お姉様方も光白龍族の方々も、どうか、武器をお仕舞いください」
歌夜は少し悲しそうな目で切願する。
その言葉に大爆が最初に従う。
それに刃冷、地香の順で従う。
「…………」
私たちも歌夜の言葉に従うことにした。
「だいたい歌夜、何故お前がここにいる?」
地香が問いただす。
「いつもはお兄様お一人でお出かけになるのに、今日はお姉様方もご一緒だったので。
その上、お兄様はどこかお辛そうでしたから。
どうなされたのかお聞きしても、お兄様は何もお答えになりませんでしたから、
心配になりまして、その……後をつけて参りました」
歌夜は少し躊躇いながら答える。
「…………」
地香たちは黙っている。
この子、けっこう勘がいいみたいね。
歌夜は更に続ける。
「そして、お兄様に追いついたときには、そちらの恵炎様が倒れていらしたので……」
「歌夜ちゃんの龍力で起こしてもらったですぅ」
歌夜の言葉を恵炎が引き継ぐ。
それにしても、この歌夜って子はすごく丁寧な子ね。
一応敵のあるはずの恵炎に対しても『様』をつけるなんて。
「恵炎様が目を覚まされた後、お兄様に事の次第を説明していただきました。
お姉様、どうして、どうしてこのような事をなさるのですか!? このような事をして、一体何になるのですか?」
今度は歌夜が地香に訊く。
「……決まっている、復讐のためだ。光白龍族は私たちの父を死に追いやったんだ」
「それは知っております。しかし、それはこの方々ではありません。
今、お姉様がなされているのは、八つ当たりと呼ばれるものではありませんか!?
光白龍族の方全てをお恨みになるのは、それは間違いではありませんか!?」
「…………」
地香はただ黙っている。
この子の言う事、間違ってないもの。
「お姉様! このような事、どうか、どうかお止めください!!」
歌夜は今にも泣き出しそうな目で自分の姉に切願する。
「お姉さま、ボクからもお願いします!」
緑心も切願する。
「…………」
地香はまだ黙っている。
「……なぁ、地香。とりあえず、もう帰らねーか?」
口を開いたのは地香ではなく大爆。
「大爆……」
「オレあんま、あいつのあんな顔、見たくねーんだ……」
歌夜の泣きそうな顔を差しながら大爆は言う。
「……そうですね。今日のところはとりあえず引きませんか、地香」
「刃冷、お前まで……」
「この二人の前では、少々戦い辛いものがあるんじゃないですか?」
確かに刃冷の言う通りかもしれないわね。
私から見ても、あの二人、特に歌夜の前じゃちょっと戦いにくいわね。
「……そうだな。ここは一旦引くか……」
地香は少し悔しそうに言う。
「光白龍族! いつかこの決着、必ずつける!」
地香がそう言うと、闇黒龍族はみんな帰っていく。
私たちは黙ってそれを見送る。



  

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