「ランラランララ〜ン♪」
恵炎は楽しそうに森の中を歩く。
木と木の間から日の光が差す。それが何とも心地よい。
「ランララン………あれぇ?人がいるですぅ」
恵炎は前方に誰かいるのに気付き、駆け寄る。
「どうしたですかぁ?ダイジョウブですかぁ?」
恵炎はしゃがみ込み、目の前にいる人物に声をかける。
「……うん、大丈夫だよ……」
恵炎の目の前にいる人物――少年は恵炎ににっこりと笑いかける。
「……あっ、タイヘンですぅ!足をケガしてるですぅ!」
「えっ……あ、大丈夫だよ、これぐらい……」
「ちょっと見せるですぅ!」
「え……」
恵炎はそう言うと、少年の怪我に手を当て、龍力を使い怪我を治し始める。
「…………」
少年は無言でそれを見つめる。
「…………はい、治ったですよぉ」
「あ、ありがとう……」
「ん? どうしたですかぁ?」
「え?」
いきなりそんな事を言われた少年は戸惑う。
「恵炎の顔に何かついてますかぁ?」
「え? あっ、いや、そうじゃなくて……キミ、そのぉ、何とも思わないの?」
「ん? 何がですかぁ?」
恵炎はきょとんとする。
「ボクの……髪の色……とか」
「えぇ……? 前髪が緑でぇ、後ろ髪が……黒ぉ? ……ああ! 闇黒龍族の人ですぅ!」
恵炎は少年の言わんとする事がようやく分かり、手を叩く。
どうやら恵炎は、少し天然が入っているようだ。
そう、恵炎の言う通り、後ろ髪が黒いのは闇黒龍族の証なのである。
「う、うん、そうだよ……」
少年は少しためらいながら頷く。
「うわぁ! 恵炎、闇黒龍族の人と知り合いになれたですぅ! 嬉しいですぅ!」
少年が闇黒龍族と分かり恵炎は喜ぶ。
「あ……あの、何もしないの?」
「へ? 何をですかぁ?」
「えっと……攻撃……とか」
少年はおどおどしながら恵炎に訊く。
「……どうして、そう思うですかぁ?」
少年の質問に答えず、今度は逆に恵炎が――少し悲しそうな顔をして――訊く。
「だ、だって、お姉さまが、光白龍族はボクたちを見たら、すぐに攻撃するって……」
少年は先程よりさらにおどおどしながら答える。
「……恵炎は……恵炎は、みんなと仲良くしたいですぅ。闇黒龍族の人とも仲良くしたいですぅ……」
恵炎はうつむきながら言う。
「ほんと……? ほんとに、そう思ってくれるの?」
少年は少し目を見開きながら訊く。
「ほんとですぅ……。恵炎だけじゃないですぅ。雷音ちゃんも、凛泪ちゃんも、日華ちゃんも、迅風くんも、
それからぁ、お兄ちゃんも、きっとそう思ってるですぅ……」
「……光白龍族も……そう思っていたなんて……」
「えぇ!?」
少年の言葉に恵炎は顔を上げる。
「これを聞いたら、きっと歌夜(コーイェ)も喜ぶよ」
少年の顔から笑みがこぼれる。
「あのぉ……」
「ん? 何?」
「歌夜ってダレですかぁ?」
恵炎は少し戸惑いながら少年に訊く。
「あ、歌夜はね、ボクの双子の妹なんだ。最近龍巫女になったばかりなんだよ」
「闇の龍巫女さまですかぁ! すごいですぅ!」
「今度は歌夜と一緒に来るよ」
「ほんとですかぁ! ウレシイですぅ! あっ……あのぉ、あともう一つ、いいですかぁ?」
恵炎はふと思い出したように言う。
「ん? 何?」
「そのぉ……あなたの名前、何て言うですかぁ?」
恵炎にそう聞かれた少年は、ハッとなって、
「あ、ごめん、名乗ってなかったね。ボクは緑心(ルーシン)って言うんだ。よろしくね」
「恵炎ですぅ。よろしくですぅ」
二人は互いに握手をする。
「さてと、そろそろ帰らないと……」
「恵炎も帰らなきゃですぅ。お兄ちゃんが心配するですぅ」
「それじゃあ、またね、恵炎ちゃん」
「はい、また会うですぅ、緑心くん」
こうして、二人はそれぞれ帰路に着く。



  

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