同時刻。緑心が神殿らしき建物に入っていく。
神殿は黒と紫を基調としていて、ところどころに龍の彫刻が彫られている。
あまり広くない通路を進んでいくと、やがて広間のような場所に出る。
そこに一人の少女がいる。
波打った長い黒髪、手には身の丈以上の長さがある杖を持っている。
少女は緑心の足音に気付き、振り向く。
「あ、お兄様」
少女は緑心の事を『お兄様』と呼ぶ。
「歌夜。やっぱりここにいたんだね」
緑心は少女の事を『歌夜』と呼ぶ。
どうやら彼女が、緑心の双子の妹らしい。
「また、考え事してたの?」
「……はい」
歌夜は頭を軽く縦に振る。
「どうして私達は、闇黒龍族と光白龍族は仲違いばかりしているのでしょう……。
どうして、歩み寄ることができないのでしょう……。遥か昔のように、ともに助け合う事は、もう……出来ないのでしょうか……」
実際の年齢よりもずっと大人びた丁寧な口調で、歌夜は悲しそうに話す。
「……歌夜、あのね、今日光白龍族の女の子に会ったんだ」
緑心はゆっくりと話し出す。
「その子、恵炎ちゃんって言うんだけどね、恵炎ちゃんはこう言ってたよ。
『恵炎はみんなと仲良くしたい。闇黒龍族の人とも仲良くしたい』って」
「本当ですか!? お兄様」
歌夜は少し目を見開く。
「うん。だからきっと、昔みたいにみんなで仲良く暮らせるよ」
緑心は歌夜に笑いかける。
「……はい」
緑心の笑顔に答えるように、歌夜も緑心に笑いかける。
そのやりとりを緑心と歌夜には気付かれないように、広間の入り口の物陰から見ていた女性がいた。
「……ふぅん、『恵炎』か。使えるかもしれない……」
女性は軽く唇の両端を吊り上げる。
茶色の前髪に茶色の瞳の女性は、二人に気付かれないようにその場を去った。



  

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