数日後。
「それでは、いってくるですぅ〜!」
「ああ……」
いつものように恵炎が森へ行く。
そして、土穏はそれを見送る。
しばらくすると、恵炎の姿は見えなくなる。
ここのところ、いつも恵炎は森に出かけてるわね。
私は二人のやりとりを少し離れたところから見ていた。
「恵炎、今日もあの緑心とかいう子に会いに行ったの?」
私は土穏に話しかける。
土穏は声を出さずに、頭を軽く縦に振って答える。
視線は、もう見えなくなっている恵炎を見ている。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。恵炎、強いんだから」
「ああ……」
土穏は頷くが、それでも視線をこっちに向けようとしない。
「……ふぅ。土穏、気分転換でもしない?」
「え?」
「これよ、これ」
私はそう言いながら、右手につけている腕輪の宝玉から大刀を取り出す。
私たち龍族は、普段は利き手にしている腕輪の宝玉に武器を仕舞っていて、必要な時にそこから取り出すのよ。
「ああ、そうだな」
土穏も棍を取り出す。
「それじゃ、道場に行きましょうか」
まあ、勝負の結果は見えているけどね。
でも、四六時中恵炎の心配をしてたら、土穏の身がもたないしね。
これで気がまぎれるなら、それでよしとするかな。


恵炎は小走りで森の中を行く。
恵炎の顔に断続的に日の光が当たる。
少しでも早く緑心に会いたいのだろう。
恵炎は時々ある木の根や石を器用に避けながら走る。
やがて、前方に人影が見えてくる。
それが緑心だとわかると、恵炎は少し声を張り上げて緑心に呼びかける。
「緑心く〜ん!お待たせしたですぅ〜!」
恵炎は緑心の前で止まり、下を向き息を整える。
「今日も歌夜ちゃんは来れないですかぁ?」
「う、うん……。なんか、忙しいらしいんだ……」
息を整え終えて顔を上げると、恵炎はある事に気付く。
「あれぇ? 緑心くん、どうしたですかぁ? なんか元気ないカンジがするですぅ」
「………!」
緑心は少し驚く。
「あ、あの……恵炎ちゃん……」
「ん〜? なんですかぁ、緑心くん?」
恵炎は真っ直ぐ緑心を見つめる。
「あ、あの………」
緑心が何かを言おうとしたその時――
――トンッ
「!」
恵炎の後ろに誰かが木の上から降りてくる。
「だ、誰で……」
恵炎が後ろを振り返ろうとした瞬間、
――ドンッ!!
「あ………」
――バタッ!
後ろにいた人物の攻撃を食らい、恵炎はその場に倒れ込む。
「……とりあえず、こんなところか……」
恵炎の後ろに立っていた人物――茶色の前髪と茶色の瞳の女性がかすかに笑う。



  

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